孤独のグルメ・孤高が似合う男
2012.5.9

腹が減って死にそうだ! 流石はテレビ東京。こんな番組があるのか。人相の悪い、図体のでかいおっさんがひとり、仕事の合間を縫って食事をする。それもおっさん声のモノローグをナレーションに、ただひたすら食べつづける場面が延々と流れる。

小生、テレ東系の放送地域に住んでいないため、まったく無知の状態で、しかも平日の夜中、唐突にこれを見せつけられました。個々のエピソードについてあれやこれやとのたまうのも野暮ですし(ネタバレにつながる?)、明らかに設定ありきの番組なので、そちらをメインにお話ししたいと思います。


まず、個人で輸入雑貨商を営む主人公の井之頭五郎(いのがしら・ごろう)。とにかく食べることが大好き。仕事で訪れた土地土地で心ゆくまで食事をするのですが、明らかに仕事よりそちらに比重を置いています。関東近郊で仕事をしている割に、有名店や高級店には足を運ばず、そのときどきの状況に応じて、自らの勘を信じ安住の地を探し歩きます。甘いものやB級グルメにも目がなく、まったくの下戸。したがって、飲み屋・一品料理の店に入っても「白飯」を注文し、酔っ払いから白い目で見られる始末です。

演じる松重豊(まつしげ・ゆたか)氏は Vシネ・悪役となると必須と言ってよい存在。強面ながらもどこかお人好しで憎めないタイプの五郎を好演しています。もちろん、ドラマのハイライトである「食べっぷり」についても素晴らしい。実に美味そうに頬ばる。遠藤憲一氏もそうですが、長らく悪役ばかりを演じてこられた役者さんが途端にコミカルな役柄に転ずると、そのギャップにとても魅力を感じてしまいます(もちろん、長い下積み生活で養われた経験が活きているのは疑うべくもないですが)。

さてドラマのほうは、仕事で訪れた駅に五郎がひとり降り立つ場面からはじまります。基本的な流れを書くと、仕事(適当)→腹が減った(空腹発動)→店探し(彷徨)→ひとり飯(独白)→帰路(満足)のパターンです。仕事や食事のシーンでは、なかなかに濃厚(?)な役者さんを揃えていて、そちらも見所のひとつかもしれません。

孤独のグルメ

しかし、メインはあくまでも食事。その日の仕事がひと段落すると、確実に五郎の空腹が極限状態となり、三段階に渡ってカメラがズームアウトして彼の孤独と空腹ぶりを知らしめます。そして店探し。とにかく歩く。空腹度合いによっては早足にもなり、意中の店をロックオンするまでその足は止まりません(彷徨いつづけている間にも、独自の講釈は尽きません)。ようやくお眼鏡にかなった店を見つけ、席に着くやメニューを物色。飲み物は当然「ウーロン茶ください」。店員さんや他のお客さん、自問自答のモノローグを経て注文に至ります。あ、「白飯」と「味噌汁」も欠かせませんね。あとは出されたものを一心に食べるだけ。どうでもよい自画自賛やくだらないダジャレを挟みつつ、「心の声」なので口の動きを邪魔することはありません。

「ごちそうさまでした」と至福の時を終え、店を跡にする五郎。テーマソングとスタッフロールが流れて番組終了。この後、原作者が登場するオマケ(本篇?)があるのですが、ここでは割愛します。


昨今、地上波のテレビ番組において「食」を扱わない内容を目にすることはまずありません。「情報番組」ならまだしも「クイズ番組」や、特定の芸能人にスポットを当てる「トーク番組」などでも、話題のお店や行きつけのそれなどを紹介することが既成事実となり、本来の番組の趣旨が不明瞭、果ては何の番組をやっているのか理解不能な域にまで達しています。それを各々のテレビ局がのべつ幕なし流しつづければ、多少お店がちがったとしても、絵面は同じようにしか映りません。安易に視聴率を上げようとする制作側と、デフレ+競合のなかで客足を伸ばしたい店側の利害が一致しているとはいえ、あまりに浅薄で滑稽ですらあります。むろん、それら作られた情報に流されるわれわれも同様に哀れなピエロです。

「孤独のグルメ」主人公の五郎は、「食欲」を満たすため、常に自分の意思に従い、自らの足を動かします。妥協という名の多くの誘惑に流されず、たとえ失敗しても自らの考えを貫く。だからこそ、「これぞ」と思えるお店と食事に巡り逢えた際は、途方もない満足感を得られるわけです。有名店の「名前」に踊らされ、マジョリティ(多数派)の正義に流されていては、「孤高」であるからこその「孤独」を愉しむことは叶いません。

ドラマの演出、演じる役者さん、饗される料理の水準が高いのは言わずもがな。そのうえで、「孤高」で「孤独」な五郎の立ち居振舞いこそ、現代人には薄れたよい意味での「ひとりよがり」であり、「孤独のグルメ」の最大の魅力ではないかと思います。


※追記(2012.9.12):何と! 「孤独のグルメ Season2」がテレビ東京系列で10月からスタート。またゴローちゃんに逢える。果たしてこちらの局では放送があるのか? (←不安)